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ちょっと詳しく

人も動物も怖いレプトスピラ症・SFTS

「感染症」というとどのようなものを思いうかべますか?

20世紀前半までの日本は、人でも肺炎、気管支炎、結核、胃腸炎などが死因の上位に来るような感染症の多い時代でした。20世紀後半になると予防医学や衛生環境も向上して感染症は減少し、「怖い病気」は、がん、脳血管疾患、心疾患やいわゆる生活習慣病などに取って代わられました。
ところが、今テレビをつけると「インフルエンザが大流行」、「新型インフルエンザに注意」、「中国でSARSが発生」、「中東でMERSが発生」、「新型コロナウイルス感染症の新たな感染者を確認」など感染症のニュースが盛んに流れています。インフルエンザ、新型インフルエンザは「インフルエンザウイルス」、SARS、MERS、新型コロナウイルス感染症は「コロナウイルス」でいずれも「ウイルス」による感染もしくは従来のウイルスが変異した(性質や形状が変わってしまうこと)ウイルスによる感染症です。衛生環境が向上した現代でもみるみるうちに広がっていく感染症は誰もが「怖い病気だな。気をつけないといけない。できる限り予防しよう。」と思っているのではないでしょうか。ただし、ここで忘れてはいけないのは「怖い感染症は新聞、テレビ、ネットのニュースで報道されているものが全てではない」ということです。例えば、上記の感染症は感染源に「ブタ」、「コウモリ」、「ラクダ」、「ネズミ」などが関わっていることも報道されているので(感染源が特定されていないものもありますが)「人と動物の間で行き来する病気がある」ということはすでにおわかりだと思います。今回は壮大な「感染症についての議論」はまず横に置いておいて、動物病院の獣医師として「人にも動物にも怖い感染症」として気になる病気を2つ挙げたいと思います。それは「レプトスピラ症」と「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」です。もちろん、「狂犬病」も怖い病気ですが「今身近にあり今日、明日感染するかもしれない病気」というわけではないので今回は除外します。

 

レプトスピラ症

レプトスピラ症は、げっ歯類を中心とした犬を含めた多くの哺乳類(野生動物、家畜、ペット)の腎臓に住みついて、感染した動物の尿中に病原性のレプトスピラ菌を排泄することにより水や土壌が汚染され、その汚染された水や土壌への接触や、汚染された水や食物を摂取することによって経皮および経口感染します。レプトスピラ症は、軽度の場合軽い風邪のような症状で済むことが多いですが、重症例では黄疸、重症肝炎、重症腎炎を起こし死亡することもあります。人の場合、かろうじて命を取りとめても一生重い肝炎に苦しんだり透析を続けなくてはいけなくなったりすることもあります。犬でも重症例では死亡、重症で命を取りとめたものや軽症で一見自然治癒したものでも腎臓内の菌が完全に除去されていないと犬自体は無症状のまま病原性のレプトスピラ菌を尿中に排泄し続ける「キャリア」となり人や犬に対する感染源となります。
レプトスピラ症は人も犬も「届出伝染病」に指定されており、レプトスピラ症を診断した医師は保健所に獣医師は家畜保健所に届出なければならないと定められています。つまり、レプトスピラ症は「人の命に関わる病気」ということです。
病原性のレプトスピラ菌を持ったネズミは田畑、草むら、土手、水たまり、河川などの水辺、下水、魚市場などに菌をばらまいていきます。もし、天井裏をネズミが走り回っていたとすれば住んでいる家も濃厚感染区域となります(室内飼育の小型犬がレプトスピラ症にかかったという報告もあります)。別荘地や旅行先、川や湖などでのレジャーも注意が必要です。
2019年は台風19号で日野市内でも内水氾濫が発生しましたが、洪水の後はレプトスピラ症の発生が増加すると言われています。レプトスピラ菌は数ヶ月~年単位で環境中に感染力を持ち続けるので、私たちの住んでいる地区も安心してはいられません。ネズミが運ぶ病気というと郊外の病気のようなイメージがありますが、2007年1月~2016年4月末の国内感染報告の1割は東京でした。また、2018年には武蔵野市、昭島市でも発生しています。診断に至らずに届出されていないものもあると考えると、潜在的なレプトスピラ症やキャリアの犬は思いのほか多くいるのかもしれません。残念なことに、今国内では人用のレプトスピラ症のワクチンは製造されていませんので人は予防、早期発見、早期治療が対策となりますが、犬にはレプトスピラ症の代表的なタイプを予防することができるワクチンがあります。レプトスピラは世界中で250種類以上のタイプがみつかっており、そのうち日本には15種類のタイプがあると言われています。その中には病原性の強いものと弱いものがあるのですが、犬のレプトスピラ症のワクチンは人・犬ともに病原性の強いもの、犬のレプトスピラ症のうちの50%を占めるもの(このタイプは、げっ歯類⇒犬の感染ルートのほかに犬⇔犬で感染を広げるものです)などが存在しています。今後予防できるレプトスピラのタイプも増えていくことが期待されます。
犬のワクチンは法律で接種が義務づけされている「狂犬病」の他に「混合ワクチン」として任意接種のワクチンがあります。ワクチンは年々品質が良くなり、毎年接種しなくても接種前に採血をして「抗体価」を調べ「現在特定の病気に対する抵抗力は追加のワクチンが必要なほど低下しているか、それともまだ十分な抵抗力を持っているか(ワクチンの追加接種が必要かまだ必要ないか)を見極める方法も徐々に広まってきています。WSAVA(World Small Animal Veterinary Association:世界小動物獣医師会)ワクチネーションガイドラインでは、狂犬病は年1回の追加接種が必要だが、狂犬病以外のコアワクチン(犬の場合ジステンパー、犬パルボウイルス感染症、犬アデノウイルス(2型)(犬伝染性肝炎:アデノウイルス1型も予防)、猫の場合猫汎白血球減少症、猫ウイルス性鼻気管炎、猫カリシウイルス感染症)は原則3年以上の間隔をあけての接種、ノンコアワクチン(上記以外のワクチン、レプトスピラ症はノンコアワクチンに含まれます)はリスクにより必要に応じて接種することが推奨されています。これは「すべてのワクチンの接種は3年に1回でよい」というものではありません。あくまで、抗体価を測定し、根拠に基づいて必要十分なワクチン接種を実施することを推奨するものです。ちなみに現在流通しているワクチンでは、レプトスピラ症のワクチンは最も優れたワクチンでも年1回の追加接種が必要だというデータが出ています。2020年2月現在、日野市、国立市、府中市、立川市、多摩市、八王子市ではレプトスピラ症発症の届出はありませんが、私たちの住む多摩地区は川の流れる街であり年々巨大化する台風のことも考えるとレプトスピラ症の予防についてもう一度考え直した方が良いかもしれません。今接種可能なレプトスピラ症ワクチンは「犬のワクチン」ですが、犬を介して人の健康と命を脅かす可能性のある病気を予防するためのものでもあることを知っておいてください。

 

SFTS(重症熱性血小板減少症候群)

SFTSは2011年に中国の研究者らによって発表された新しいウイルスによるダニ媒介性感染症(マダニに咬まれることによって感染が広まる病気)です。SFTSウイルスが発表された当初は感染するのは人だけだと考えられていました。しかし、2017年にたて続けに猫、犬、チーターに発症が認められました。SFTSウイルスは人、野生動物、家畜、ペットなど様々な哺乳類が感染しますが、2020年2月現在で発症の報告があるのは人、犬、猫、チーターのみです。また、SFTSは致死率が高く、人で6.3~30%、犬で29%、猫で60~70%、チーターで100%と報告されています。鳥の感染は報告されていますが詳しいことは調査中のようです。
SFTSウイルスは、病原性ウイルスを持ったマダニが卵をうむと卵を介してウイルスが伝わり、大量のウイルスを持った幼ダニが生まれてくること(マダニサイクル)と、病原性ウイルスを持ったマダニに咬まれた人や動物がウイルスに感染し、その一部は血中にウイルスを持ち続け(ウイルス血症)、ウイルス血症になっている人や動物を咬んだマダニは新たにウイルスを獲得する(動物サイクル)の2つのサイクルが合わさって無数の病原ウイルス保持マダニが増えていくと考えられています。
SFTSを発症した場合は、人、犬、猫とも発熱、元気消失、消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)、白血球減少症、血小板減少症、黄疸、肝酵素上昇、出血傾向、(他に人では頭痛、筋肉痛、意識障害など)などが認められます。さらに、SFTSのウイルスはマダニに咬まれるだけでなく、ウイルス血症を起こしている動物の排泄物や唾液を介しても感染することがわかっています。2020年2月現在では人、犬、猫とも西日本での発症に限られていますが、発症の報告はないものの、ウイルスを保有している動物は野生動物も含めると徐々に西から東へ分布域が拡大してきているという報告があります。季節的には3月頃から発生が増え始め、4月をピークとして11月までが発生の多い時期と考えられていますが、2019年は2月にも発生が見られたので冬場も注意が必要だと考えられます。SFTSは2011年に初めて報告された新しい感染症なのでまだわかっていないことも多く、徐々に集まってくるデータを分析している最中でもあります。現時点でわかっていることは①SFTSのウイルスを持ったマダニは猛烈な増殖力で西日本から東日本に向かって分布が拡大してきていること、②SFTSは病原性ウイルスを持ったマダニに咬まれることやSFTSウイルスを保持している犬や猫などの動物に濃厚接触することで感染する、③マダニに咬まれることによりウイルス血症となった動物は全てが発症するわけではなく、見かけ上無症状で血液中にウイルスを持って感染源(唾液、糞尿からウイルスを排泄している)となっているもの(キャリア)が一定数いて増え続けている可能性があることなどです
2013年3月4日から2020年1月29日までに届出られた、人での発症例のデータ解析によると、SFTSはこれまでに人で498人の患者(発症者)が報告されていますが、2019年の人での発症数は過去最多の102名となっています。人をSFTSから守るためには、草むらなどマダニの多く生息するところにはなるべく近寄らない、山歩きや草むらに近づくときは長袖・長ズボン、首周りのガードをして極力マダニに咬まれないようにする、飼育している犬や猫のマダニ予防を徹底する、万が一自分の飼育している犬や猫にSFTS発症の可能性がある場合速やかに動物病院を受診して診断を受け人への感染を防ぐことが大切です。また、2020年の1月には、北海道で山菜採りに出かけてマダニに咬まれた人にSFTSによく似た症状を引き起こした新しいウイルスもみつかっています。
マダニが媒介する病気は他にも複数知られているので、地域、季節を問わず注意が必要です。まず、身近な自分の家族である犬猫のマダニ予防から始めてみてはいかがですか?

参考文献:NIID国立感染症研究所HP https://www.niid.go.jp
レプトスピラ症とは
重症熱性血小板減少症(SFTS)
IASR Vol.37 p.103-105:2016年6月号 レプトスピラ症2007年1月~2016年4月
IASR Vol.40 p.118-119:2019年7月号 SFTS発症動物について(イヌ、ネコを中心に)
IASR Vol.40 p.116-117:2019年7月号 動物におけるSFTSV感染の疫学調査

IASR Vol.41 p.11-13: 2020年1月号 北海道における新規オルソナイロウイルス(エ

ゾウイルス:Yezo virus)によるマダニ媒介性急性発熱性疾患の発見