スキンケアというと、人間の世界での美しい肌を保つために女性を中心に化粧水、乳液、美容液、パックなどの基礎化粧品を使って、乾燥や美肌、アンチエイジングのためのものであり、フサフサの被毛におおわれた動物達には縁のない世界・・・というイメージはありませんか?健康な肌は人間でも過剰なお手入れは無用ですが、トラブルを感じる肌だと、あの手この手のお手入れが必要になります。それは動物においても同じことなのです。
今回は皮膚のトラブルの多い犬について述べていきたいと思います。人間の皮膚の生まれ変わり(ターンオーバー)は約28日といわれていますが、犬では約20~22日(約3週間)で、健康な皮膚の場合生まれ変わって落ちるフケ(落屑)はほとんどめだちません。皮膚の一番外側の角質層は「バリアー層」として働き、乾燥防止や細菌などからの防御の役割をしています。
しかし、犬に肌トラブル(乾燥、細菌・真菌・酵母菌感染、寄生虫、アレルギー、膿皮症、脂漏症など)があると正常なターンオーバーのサイクルがくずれ、3~7日(約1週間)と短くなってしまいます。それによってフケの量が増える・・・という現象が見られるようになります。肌としては、アレルギー物質や病原体を振り落とそうとターンオーバーを早めるのですが、もともと人間よりも表皮が薄い(人間の1/5~1/6程度。赤ちゃんよりも薄いのです)犬には、バリアー層にある角質を落としてしまうことは、さらなる防御機能の低下となり、皮膚のトラブルは悪循環に陥ってしまいます。
健康な皮膚は、角質層がきれいに並び水分と健全な脂分が含まれ、それをセラミドがつないでいます(セラミドは水と脂の両方を捕まえる性質を持っています)。角質の並びがくずれたりセラミドの量が少ないと水分を捕まえられずに乾燥したり、脂分が変性して不健全な脂となって漏れ出したり、さらに皮膚を荒らします。荒れた肌は独特の臭気を放ちます(変性した皮脂やアポクリン汗腺の臭いなど)。アトピー体質の犬達は、生まれつき角質層の並びがくずれやすい、セラミドの量が少ないなどの特徴を持っているため、常に肌は荒れてバリアー機能がうまく働かず、感染しやすかったり、痒みに悩まされたりします。何とかしてあげたいですね。
犬にシャンプーをするのは大きく分けて2つの目的があります。1つは、健康な皮膚の犬の美容のために、清潔で美しい毛並みを保つためのものです。もう1つは、皮膚にトラブルのある犬に対し、治療としていらないものを洗い流したり足りないものを補ったりするためのものです。健康な皮膚の犬は正しいシャンプー方法(後述します)を守れば、洗い上がり、香りなどの好みで選んでもらってよいと思います(美容用のシャンプーでもフケ、痒み、敏感肌、保湿、犬種、毛色などに考慮されたものも多数出回っています。この場合のフケ、痒みなどは予防的なものと考えてください)。美容目的のシャンプーは、いわば「ヘアケア」を目的とするものといえるでしょう。
一方、薬用シャンプーは現に皮膚トラブルを抱えている犬のためのものであり、「スキンケア」を目的としたものといえます。イメージとしては「全身に外用薬を塗って一定時間反応させて余計なものを取り除き、不足しているものを補う作用」と考えてもらうとよいと思います。具体的に薬用シャンプーを使って取り除くことが期待できるものは、病原体、角質、痒み、フケ、かさぶた、過剰な皮脂、ワックス状の皮脂などであり、補うことが期待できるものは、水分や水分と脂分をむすびつけるセラミドなどです。
薬用シャンプーも数え切れないほどの種類がありますが、大きく分けて抗菌性シャンプー(細菌や酵母菌の増殖による膿皮症やマラセチア皮膚炎による皮膚トラブルを減少させることを目的とする)、角質溶解シャンプー(角質層の過剰な増殖による皮膚トラブル、荒れた皮膚やフケ、過剰な皮脂を取り去ることを目的とする)、保湿性シャンプー(角質層のつくりの弱さによる皮膚トラブルを防止し、乾燥している肌に潤いを与え、フケをおさえることを目的とする)、止痒性シャンプー(痒みを抑え、痒みによる皮膚トラブルを緩和することを目的とする。心因性の舐性皮膚炎にもちいることもある)の4つに分けられます。各シャンプーはそれぞれ特徴があり、使用が推奨されるシャンプーは個々のケースや治療段階によって異なります。動物の体質により刺激が強くて合わなかったり、動物の種類(猫など)によっては使えないものがあったり、使用回数制限があるシャンプーもありますので、使用に際しては獣医師のアドバイスが必要でしょう。
また、アトピー性皮膚炎の場合、生まれつき角質層のつくりが弱いので肌トラブルを起こしやすいうえ、環境中のアレルゲンや皮膚にいる細菌、酵母菌にアレルギー反応を起こしているケースもあります。アレルゲンを取り去るためのシャンプーはその意味でも重要です。皮膚トラブルには内服薬も使用しますが、皮膚は全身のなかでも薬の成分の届きにくい部位であり、内服薬で内側から、シャンプーで外側からのケアが有効とされています。内服薬の量や種類を減らすためにも薬用シャンプーは強い味方となります。
なんとなくシャンプーをするのと、正しい方法でシャンプーを実施するのでは効果に雲泥の差が出ます。もう一度シャンプーのやり方を再確認してみてください。
シャンプー後に肌が乾燥している時は、コンディショナーや保湿剤を使用します。シャンプー後の濡れた体に水に溶いてかけるタイプや、乾いた体にスプレーやムースで日常的に使用できるものもあります。美容シャンプーの場合も③以外は同様に考えて②~④までは10~15分以内で行うようにしてみてください。
病院から飼い主さんにお願いする薬用シャンプーを使用するシャンプー療法(薬浴)は本当にとても大変ですよね。なかには協力的でない犬もいますし、薬浴中にブルブルをして飼い主さんまでもが泡だらけ、びしょ濡れになって悲しくなってしまうこともありますね。せっかく薬用シャンプーでのシャンプー療法を行うのであればぜひ、正しい方法で実施してください。大変なことは重々承知しておりますが、頑張った分だけ効果はあらわれるはずです。
シャンプーだけで皮膚のトラブルを100%コントロールすることはできません。アトピーのように一生付き合っていかなければならないものもあります。うまくいかない時、思ったほど効果が感じられない時、心が折れそうになった時はご相談ください。「シャンプー(Shampoo)」とは、もともとヒンディー語で「マッサージする」という意味の単語からきているといわれています。薬用シャンプーは美容シャンプーの「洗う」目的よりそちらに近いかもしれませんね。ぜひ、愛犬をマッサージするようなつもりで薬用シャンプーによるスキンケアを実施してください。
参考文献:DERMATOLOGY 2010July Vol.1 No.4 特集 シャンプー療法アップデート
その有用性を存分に引き出す!
CLINIC NOTE 2011Aug No73 特集 シャンプー療法はもっと活かせるはず!
~正しい使い方と継続が導くその効果~