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人も動物も怖いレプトスピラ症・SFTS

「感染症」というとどのようなものを思いうかべますか?

20世紀前半までの日本は、人でも肺炎、気管支炎、結核、胃腸炎などが死因の上位に来るような感染症の多い時代でした。20世紀後半になると予防医学や衛生環境も向上して感染症は減少し、「怖い病気」は、がん、脳血管疾患、心疾患やいわゆる生活習慣病などに取って代わられました。
ところが、今テレビをつけると「インフルエンザが大流行」、「新型インフルエンザに注意」、「中国でSARSが発生」、「中東でMERSが発生」、「新型コロナウイルス感染症の新たな感染者を確認」など感染症のニュースが盛んに流れています。インフルエンザ、新型インフルエンザは「インフルエンザウイルス」、SARS、MERS、新型コロナウイルス感染症は「コロナウイルス」でいずれも「ウイルス」による感染もしくは従来のウイルスが変異した(性質や形状が変わってしまうこと)ウイルスによる感染症です。衛生環境が向上した現代でもみるみるうちに広がっていく感染症は誰もが「怖い病気だな。気をつけないといけない。できる限り予防しよう。」と思っているのではないでしょうか。ただし、ここで忘れてはいけないのは「怖い感染症は新聞、テレビ、ネットのニュースで報道されているものが全てではない」ということです。例えば、上記の感染症は感染源に「ブタ」、「コウモリ」、「ラクダ」、「ネズミ」などが関わっていることも報道されているので(感染源が特定されていないものもありますが)「人と動物の間で行き来する病気がある」ということはすでにおわかりだと思います。今回は壮大な「感染症についての議論」はまず横に置いておいて、動物病院の獣医師として「人にも動物にも怖い感染症」として気になる病気を2つ挙げたいと思います。それは「レプトスピラ症」と「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」です。もちろん、「狂犬病」も怖い病気ですが「今身近にあり今日、明日感染するかもしれない病気」というわけではないので今回は除外します。

 

レプトスピラ症

レプトスピラ症は、げっ歯類を中心とした犬を含めた多くの哺乳類(野生動物、家畜、ペット)の腎臓に住みついて、感染した動物の尿中に病原性のレプトスピラ菌を排泄することにより水や土壌が汚染され、その汚染された水や土壌への接触や、汚染された水や食物を摂取することによって経皮および経口感染します。レプトスピラ症は、軽度の場合軽い風邪のような症状で済むことが多いですが、重症例では黄疸、重症肝炎、重症腎炎を起こし死亡することもあります。人の場合、かろうじて命を取りとめても一生重い肝炎に苦しんだり透析を続けなくてはいけなくなったりすることもあります。犬でも重症例では死亡、重症で命を取りとめたものや軽症で一見自然治癒したものでも腎臓内の菌が完全に除去されていないと犬自体は無症状のまま病原性のレプトスピラ菌を尿中に排泄し続ける「キャリア」となり人や犬に対する感染源となります。
レプトスピラ症は人も犬も「届出伝染病」に指定されており、レプトスピラ症を診断した医師は保健所に獣医師は家畜保健所に届出なければならないと定められています。つまり、レプトスピラ症は「人の命に関わる病気」ということです。
病原性のレプトスピラ菌を持ったネズミは田畑、草むら、土手、水たまり、河川などの水辺、下水、魚市場などに菌をばらまいていきます。もし、天井裏をネズミが走り回っていたとすれば住んでいる家も濃厚感染区域となります(室内飼育の小型犬がレプトスピラ症にかかったという報告もあります)。別荘地や旅行先、川や湖などでのレジャーも注意が必要です。
2019年は台風19号で日野市内でも内水氾濫が発生しましたが、洪水の後はレプトスピラ症の発生が増加すると言われています。レプトスピラ菌は数ヶ月~年単位で環境中に感染力を持ち続けるので、私たちの住んでいる地区も安心してはいられません。ネズミが運ぶ病気というと郊外の病気のようなイメージがありますが、2007年1月~2016年4月末の国内感染報告の1割は東京でした。また、2018年には武蔵野市、昭島市でも発生しています。診断に至らずに届出されていないものもあると考えると、潜在的なレプトスピラ症やキャリアの犬は思いのほか多くいるのかもしれません。残念なことに、今国内では人用のレプトスピラ症のワクチンは製造されていませんので人は予防、早期発見、早期治療が対策となりますが、犬にはレプトスピラ症の代表的なタイプを予防することができるワクチンがあります。レプトスピラは世界中で250種類以上のタイプがみつかっており、そのうち日本には15種類のタイプがあると言われています。その中には病原性の強いものと弱いものがあるのですが、犬のレプトスピラ症のワクチンは人・犬ともに病原性の強いもの、犬のレプトスピラ症のうちの50%を占めるもの(このタイプは、げっ歯類⇒犬の感染ルートのほかに犬⇔犬で感染を広げるものです)などが存在しています。今後予防できるレプトスピラのタイプも増えていくことが期待されます。
犬のワクチンは法律で接種が義務づけされている「狂犬病」の他に「混合ワクチン」として任意接種のワクチンがあります。ワクチンは年々品質が良くなり、毎年接種しなくても接種前に採血をして「抗体価」を調べ「現在特定の病気に対する抵抗力は追加のワクチンが必要なほど低下しているか、それともまだ十分な抵抗力を持っているか(ワクチンの追加接種が必要かまだ必要ないか)を見極める方法も徐々に広まってきています。WSAVA(World Small Animal Veterinary Association:世界小動物獣医師会)ワクチネーションガイドラインでは、狂犬病は年1回の追加接種が必要だが、狂犬病以外のコアワクチン(犬の場合ジステンパー、犬パルボウイルス感染症、犬アデノウイルス(2型)(犬伝染性肝炎:アデノウイルス1型も予防)、猫の場合猫汎白血球減少症、猫ウイルス性鼻気管炎、猫カリシウイルス感染症)は原則3年以上の間隔をあけての接種、ノンコアワクチン(上記以外のワクチン、レプトスピラ症はノンコアワクチンに含まれます)はリスクにより必要に応じて接種することが推奨されています。これは「すべてのワクチンの接種は3年に1回でよい」というものではありません。あくまで、抗体価を測定し、根拠に基づいて必要十分なワクチン接種を実施することを推奨するものです。ちなみに現在流通しているワクチンでは、レプトスピラ症のワクチンは最も優れたワクチンでも年1回の追加接種が必要だというデータが出ています。2020年2月現在、日野市、国立市、府中市、立川市、多摩市、八王子市ではレプトスピラ症発症の届出はありませんが、私たちの住む多摩地区は川の流れる街であり年々巨大化する台風のことも考えるとレプトスピラ症の予防についてもう一度考え直した方が良いかもしれません。今接種可能なレプトスピラ症ワクチンは「犬のワクチン」ですが、犬を介して人の健康と命を脅かす可能性のある病気を予防するためのものでもあることを知っておいてください。

 

SFTS(重症熱性血小板減少症候群)

SFTSは2011年に中国の研究者らによって発表された新しいウイルスによるダニ媒介性感染症(マダニに咬まれることによって感染が広まる病気)です。SFTSウイルスが発表された当初は感染するのは人だけだと考えられていました。しかし、2017年にたて続けに猫、犬、チーターに発症が認められました。SFTSウイルスは人、野生動物、家畜、ペットなど様々な哺乳類が感染しますが、2020年2月現在で発症の報告があるのは人、犬、猫、チーターのみです。また、SFTSは致死率が高く、人で6.3~30%、犬で29%、猫で60~70%、チーターで100%と報告されています。鳥の感染は報告されていますが詳しいことは調査中のようです。
SFTSウイルスは、病原性ウイルスを持ったマダニが卵をうむと卵を介してウイルスが伝わり、大量のウイルスを持った幼ダニが生まれてくること(マダニサイクル)と、病原性ウイルスを持ったマダニに咬まれた人や動物がウイルスに感染し、その一部は血中にウイルスを持ち続け(ウイルス血症)、ウイルス血症になっている人や動物を咬んだマダニは新たにウイルスを獲得する(動物サイクル)の2つのサイクルが合わさって無数の病原ウイルス保持マダニが増えていくと考えられています。
SFTSを発症した場合は、人、犬、猫とも発熱、元気消失、消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)、白血球減少症、血小板減少症、黄疸、肝酵素上昇、出血傾向、(他に人では頭痛、筋肉痛、意識障害など)などが認められます。さらに、SFTSのウイルスはマダニに咬まれるだけでなく、ウイルス血症を起こしている動物の排泄物や唾液を介しても感染することがわかっています。2020年2月現在では人、犬、猫とも西日本での発症に限られていますが、発症の報告はないものの、ウイルスを保有している動物は野生動物も含めると徐々に西から東へ分布域が拡大してきているという報告があります。季節的には3月頃から発生が増え始め、4月をピークとして11月までが発生の多い時期と考えられていますが、2019年は2月にも発生が見られたので冬場も注意が必要だと考えられます。SFTSは2011年に初めて報告された新しい感染症なのでまだわかっていないことも多く、徐々に集まってくるデータを分析している最中でもあります。現時点でわかっていることは①SFTSのウイルスを持ったマダニは猛烈な増殖力で西日本から東日本に向かって分布が拡大してきていること、②SFTSは病原性ウイルスを持ったマダニに咬まれることやSFTSウイルスを保持している犬や猫などの動物に濃厚接触することで感染する、③マダニに咬まれることによりウイルス血症となった動物は全てが発症するわけではなく、見かけ上無症状で血液中にウイルスを持って感染源(唾液、糞尿からウイルスを排泄している)となっているもの(キャリア)が一定数いて増え続けている可能性があることなどです
2013年3月4日から2020年1月29日までに届出られた、人での発症例のデータ解析によると、SFTSはこれまでに人で498人の患者(発症者)が報告されていますが、2019年の人での発症数は過去最多の102名となっています。人をSFTSから守るためには、草むらなどマダニの多く生息するところにはなるべく近寄らない、山歩きや草むらに近づくときは長袖・長ズボン、首周りのガードをして極力マダニに咬まれないようにする、飼育している犬や猫のマダニ予防を徹底する、万が一自分の飼育している犬や猫にSFTS発症の可能性がある場合速やかに動物病院を受診して診断を受け人への感染を防ぐことが大切です。また、2020年の1月には、北海道で山菜採りに出かけてマダニに咬まれた人にSFTSによく似た症状を引き起こした新しいウイルスもみつかっています。
マダニが媒介する病気は他にも複数知られているので、地域、季節を問わず注意が必要です。まず、身近な自分の家族である犬猫のマダニ予防から始めてみてはいかがですか?

参考文献:NIID国立感染症研究所HP https://www.niid.go.jp
レプトスピラ症とは
重症熱性血小板減少症(SFTS)
IASR Vol.37 p.103-105:2016年6月号 レプトスピラ症2007年1月~2016年4月
IASR Vol.40 p.118-119:2019年7月号 SFTS発症動物について(イヌ、ネコを中心に)
IASR Vol.40 p.116-117:2019年7月号 動物におけるSFTSV感染の疫学調査

IASR Vol.41 p.11-13: 2020年1月号 北海道における新規オルソナイロウイルス(エ

ゾウイルス:Yezo virus)によるマダニ媒介性急性発熱性疾患の発見

レプトスピラ症とは

2018年(平成30年)は、犬のレプトスピラ症発生について東京都内で2件の届出がありました。
1例目は昭島市でパピヨン(6月13日届出 10歳 オス)、2例目は武蔵野市でミニチュアダックスフンド(11月5日届出 10歳 オス、その後死亡)でした。

レプトスピラ症はズーノーシス(人獣共通感染症)であり、獣医師がレプトスピラ症の動物を発見したときは家畜伝染病予防法に基づき、都道府県に届け出なければならないことになっています(届出の対象となるのは7種類の血清型で、対象動物は牛、水牛、鹿、豚、いのしし、犬です)。

現在犬レプトスピラ症の届出の報告は西日本に多い傾向にはありますが全国的に発生が認められている病気です(不顕性感染や突然死、診断不十分などから届出に至らなかったものも含めると、届出数よりも多くの発生があることが考えられます)。
流行している地域では流行しているレプトスピラ症のタイプ(血清型)にあったレプトスピラ症のワクチンを犬に接種することが推奨されています。

2018年は都下でたて続けに2件の届出がなされたので今後私たちの住む日野市・国立市・府中市・立川市・多摩市・八王子市周辺もより注意が必要になってくるかもしれません。

レプトスピラ症とは、運動性のあるらせん状の細菌(スピロヘータ)で、病原性のあるものと病原性のないものの2種類に分類され、血清型(レプトスピラ症のタイプ)は250種類以上あります。
そのうち、国内でレプトスピラ症の原因となったものは14種類ほどだといわれています。感染の可能性があるのは人・犬・猫・家畜(牛・豚・馬など)・げっ歯類・野生動物・爬虫類・両生類など多くの動物(100種類以上)です。

レプトスピラは人や動物の体に入り込み、肝臓や腎臓で増殖し、尿とともに体外に排泄されます。そのような尿に汚染された水や土壌との接触によって皮膚の微細な傷や健康な粘膜から感染します。
けんかや性交・汚染された敷材・洪水や台風の後の泥水などからも感染することがあり、特にネズミは自身に害を与えずに病原体をまき散らす可能性のある要注意な動物となります。

犬のレプトスピラ症の潜伏期間は5日~2週間とされ、臨床症状から不顕性感染(感染しても症状は明らかに示さないもの)・出血型・黄疸型などがあります。
犬ではほとんどの場合が不顕性感染ですが(不顕性感染でも病原体は排泄します)、出血型は1~2日の発熱後に食欲不振・嘔吐・下痢・結膜充血・出血傾向などを示し、黄疸型は黄疸と血色素尿が見られ、出血型・黄疸型のいずれも甚急性あるいは亜急性、慢性の経過をとり死亡します。
甚急性のものは進行がはやいため腎不全や肝不全を認める前に、亜急性のものは肝疾患・腎疾患の複合的な症状がみられ腎不全により高確率で死亡します。
甚急性・亜急性のものから生存した少数の犬は慢性経過をとり、慢性の肝疾患・慢性の腎疾患により死亡します。

人に対する感染と予防についてですが、哺乳類に感染するレプトスピラの全てのタイプは人にも感染するものと考えられています。
感染している動物の尿・汚染した水・保菌動物には素手で触らないようにしてください。レプトスピラに汚染されている水や食物を口にすることによる経口感染にも注意が必要です。感染が流行している地域では流行しているレプトスピラのタイプ(血清型)にあったワクチンの接種が有効とされます。
日本国内だけでなく、東南アジアの一部のレプトスピラの流行地域では不用意に水に入らないこと、台風や洪水の後には特に注意が必要になります。
感染が疑われるときは速やかに医療機関を受診してください。

犬については、草むら・河川敷・堤防・農地や雑木林がお散歩コースに含まれていたり、川での水遊びや山遊び、またドッグランなど不特定多数の犬が集まるところに出入りする可能性のある場合は、レプトスピラ症の予防も含めたワクチンを接種したほうがよいと思われます。都市部のドブネズミによるレプトスピラの拡散について考えると一概に都市部だから安全ともいえないようです。
ただし、犬についても病原性のある全てのレプトスピラに対するワクチンがあるわけではないので、日頃から不用意な拾い食いやたまり水を飲ませないこと、不調が見られた場合速やかな動物病院への受診も大切です。
正しい情報と知識をきちんと持ったうえで、楽しい愛犬との生活を安全にお過ごしください。

ワクチン接種プログラムについて

犬や猫を飼われている方は愛犬や愛猫にワクチンを接種したことがあると思います。
ワクチンには大きく分けてコアワクチン(世界中で感染が認められる病気で、命にかかわる可能性があるため、できる限り全ての犬や猫が接種することが望ましいとされるワクチン)と、ノンコアワクチン(地域の環境や各個体のライフスタイルによって接種することが望ましいとされるワクチン)の2つがあります。
日本では犬のコアワクチンは、狂犬病(法律で1年に1回の接種が義務付けられています)・犬ジステンパー・犬パルボウイルス感染症・犬伝染性肝炎(犬アデノウイルス1型感染症)・犬伝染性喉頭気管炎(犬アデノウイルス2型感染症)の5つ、猫のコアワクチンは猫汎白血球減少症(猫パルボウイルス感染症)・猫ウイルス性鼻気管炎・猫カリシウイルス感染症の3つがあります。
犬のノンコアワクチンは、犬パラインフルエンザ・レプトスピラ症など、猫のノンコアワクチンは猫白血病ウイルス感染症・猫免疫不全ウイルス感染症(猫エイズ)・クラミドフィラ フェリス感染症などがあります(犬コロナウイルス感染症のワクチンを積極的に接種するかどうかは意見の分かれるところです)。

個々の病気についての説明は今回は割愛しますが、ほとんどの犬や猫は母親の母乳から免疫をもらい(移行抗体)赤ちゃんの頃は母親から受け継いだ免疫に守られて過ごします(母犬・母猫がワクチン未接種などで免疫を持っていない場合にはもちろん子犬・子猫には受け継がれません)。また、母親から受け継いだ免疫が子犬・子猫から消失する時期には個体差があり、母親から受け継いだ免疫の量が多いとワクチンはそれにはねつけられて十分な効果を発揮できないため、初年度は複数回の接種が必要になります。
犬の場合、通常は1回目が生後6~8週後(母犬からの免疫が最も早く消失したケースを想定)、その後約1か月ごとに2回目、3回目を接種します。2回接種になるか3回接種になるかは子犬の最終ワクチンの接種時期が生後12週を超えたところ(ワクチンによっては生後16週を超えたところ)で、母犬からの移行抗体が完全消失し、自分の力で抗体を作り出せる時を初年度の最終とします。
その後6か月または1年後にワクチンのより確かな効果(ブースター効果)を得るために追加接種をします(ワクチンの免疫がついていない可能性のある犬や、環境、ワクチンの種類によってはさらに追加接種が必要な場合もあります)。
猫の場合は、生後9週令以上で1回目、2週間から1か月後までに2回目、ブースターとして1年後に追加接種することが基本となります(猫にはもっと頻回接種が必要だという説もあります)。その後の成犬・成猫時のワクチン接種はどうしたらよいのかは、現在獣医師の間でも議論されているところです。WSAVA(世界小動物獣医師会)のガイドラインでは、『子犬時にしっかりとしたワクチンプログラム(上記の接種プログラム)を実施した場合はコアワクチンについては3年に1回(ただし、日本では狂犬病のワクチンは年1回の接種が義務付けられているため1年ごとの接種となります)、ノンコアワクチンについては年に1回の追加接種でよい』とされています。猫については『猫汎白血球減少症(猫パルボウイルス感染症)は3年に1回、猫ウイルス性鼻気管炎と猫カリシウイルス感染症は1匹のみの完全室内飼育で感染リスクの少ない場合は3年に1回、多頭飼育や室内外を行き来したり感染のリスクの高いケースでは毎年の接種』が推奨されています。ただし、海外と日本国内では認可・流通しているワクチンの種類が異なるので、なかなか海外の推奨プログラムをそのまま日本に当てはめるのは難しいところです。
本来であればワクチン接種の前に血液検査で予防を必要とする病気の抗体価が十分あるのか、落ちてきているのかを見極めて必要最小限のものを接種することが理想的なのでしょう(希望される方は血液検査にて各病気の抗体価を調べることはもちろん可能です)。
ただ、抗体検査は1つ1つの病気について測定が必要なので費用のことも含めなかなか難しいところです。また、トリミングやホテル、ドッグラン、集合住宅でのワクチン接種なども1年ごとの実施の証明が求められている現状もあるので、今のところ日本では1年ごとに1回毎年接種していくことが現実的なのでしょうか。

かつて狂犬病のワクチンは春と秋の年に2回の接種が義務付けられていましたが、現在は年に1回の接種でよいとされています。
近い将来、犬・猫のワクチンプログラムは変わっていくかもしれませんね。

血液検査のすすめ

初めて家に迎えた時に、あんなに幼かった子犬や子猫たち・・・。ミルクからふやかしたフード、そしてウエットフードやドライフードをたべられるようになり、今では自分からごはんやおやつを催促し、それどころかごはんのえり好みまでするようになりました。成犬、成猫になってから迎え入れた動物たちも、はじめはおそるおそる行動していたものの、今では生まれた時からここにいるような顔をしています。あっという間に大人になって、かわいいおじいちゃん、おばあちゃんになってきている動物たちもいることでしょう。動物たちがもたらしてくれる幸福感は計り知れないものがあります。共に暮らす幸せな日々はずっとずっと続いてほしいものです。

しかし、家族に幸せを届けてくれる動物(犬・猫)たちですが、人間の約5倍のスピードで年をとっていきます。気がつくと白髪も増え、歯も弱り、白内障や耳が遠くなったり・・・。若い頃のように活発に動きまわって遊ぶことも減って、眠っている時間が増えてきたりします。「年のせいかな」と思うこともあるでしょうが、内臓や心臓の病気、関節の病気が隠れていることもあります。自然な老化としてうけとめなくてはならないものもありますが、気づいてケアしてあげることでより快適な時間を長く過ごすことができることもあります。なかには生まれつき持っている病気がある動物や中年期より前に病気を発症しているケースもあります。(品種により生まれ持った体質、なりやすい病気なども数多く知られています。)目に見える症状が出る頃には病気が進行していることがほとんどです。

人間にも40歳過ぎたら人間ドックの案内があるように、大切な動物たちも健康に見える時に「健康チェック」「早めのケア」としての血液検査をおすすめします。また、持病のためお薬を飲んでいる動物たちも、肝機能・腎機能などの定期的な血液検査をおすすめします。

血液検査で全ての病気を把握することはできませんが、家族みんなで動物たちの健康を考える良い機会になってくれればと思います。動物の健康状態や検査結果、または飼主さんの希望によりその他の検査(尿検査、レントゲン検査、超音波検査など)も実施できます。まずはご相談ください。

※より正確な血液検査のデータを得るために、食餌を与えずに(12時間絶食)ご来院ください。

血液一般検査(CBC:complete blood count 完全血球計算)

血液は体重のうち数%を占め、血液の約半分が血しょうであり残りが血球成分です。血球成分は赤血球、白血球、血小板に分けられますが、それらの比率も正常時ではほぼ一定に保たれています。(動物種によって構成比率は異なっています。)血液一般検査はそれらの血液構成要素の詳細を調べることによって血液学的な面から動物の健康状態を調べるものです。

血液を高速で遠心にかけると重い血球成分は下に、軽い水分は上にと比重によってわけることができます。これらのうち、水分にあたるものは血清もしくは血しょうとよばれます。(血液が固まらないような薬剤を混ぜてから取り出した水分を血しょう、血液が固まった時に分離される水分を血清といいます。)

これらの中にはタンパクやホルモン、アミノ酸、糖、ミネラルなどを含み、動物が生きていくために必要な様々な成分が溶けこんでいます。血しょう中に血球成分が混ざって体中を循環することで動物の生命活動は成り立っています。

全ての血球成分は骨髄で造られています。骨髄には、全ての血球細胞に分化する能力を持った「多機能性幹細胞」があり、それが将来赤血球、白血球、血小板になる「骨髄系幹細胞」と将来リンパ球(Bリンパ球、Tリンパ球)になる「リンパ球系幹細胞」に分化し、全ての血球を造り出します。各血球にはそれぞれ分担された役割があります。

 

赤血球

赤血球はヘモグロビンという血色素を持ち、ヘモグロビンが酸素とくっつきあうことによって体中に酸素を運びます。ヘモグロビンは酸素の多いところ(肺)でくっつき、酸素の少ないところ(全身、末梢、各組織など)で離れるという性質があり、全身に効率よく酸素を運搬することができます。

 

白血球

白血球は特殊な染色液への反応性(染まり方)により、顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)リンパ球(Bリンパ球、Tリンパ球)に分かれます。白血球は免疫や生体防御に重要な働きを担っています。

 

好中球

好中球は成熟した分葉好中球と未熟な桿状好中球に分けられます。好中球は炎症や感染などのとき血液中に増加し、細菌や異物を取り込んで殺菌することにより処理します。殺菌する成分には発熱を促す成分も含んでいるため動物に発熱がみられることがありますが、それは好中球が活発に働いている証拠にもなります。つまり、好中球は体に侵入してきた細菌を敵とみなして最前線で戦う兵士のような細胞なのです。

好中球は全体の半分くらいが血中をパトロールするように流れ、残りは予備として血管壁に待機しているのですが、その予備も使いはたすような緊急事態には未熟な桿状好中球までもが放出されます。(桿状好中球の放出は、第二次世界大戦末期に若者が0戦にのって特攻隊として突撃していったようなピンチも極まったような状態にあると考えていいと思います。)血中に桿状好中球がたくさん出現してくるということは、つまり動物にとって大変な緊急事態であることを示します。好中球は炎症があるとそこに集まってきて戦うという性質ありますが、好中球の死骸は膿の一部となって排泄されたり、マクロファージに食べられたりして一生を終えます。好中球数はその他にもストレスや興奮、ステロイド剤の使用などでも増加します。また、好中球の必要性が高まり、使いはたしてしまった時(敗血症やその他の重度な感染症など)や、骨髄での産生能力の低下や正常に成熟できない時に減少します。

 

好酸球

好酸球は寄生虫疾患やアレルギーと関連の深い白血球です。アレルギー性の皮膚炎や呼吸器疾患、寄生虫感染のときに増加します。好酸球の細胞質内に含まれる顆粒成分がはじけ出すことによって寄生虫を取り囲んで殺したり、顆粒成分によって炎症を制御したりするなど免疫および炎症反応を調節しています。

猫では好酸球が皮膚、胃腸その他に集積して皮膚炎や消化器症状などを示す病気が時々見られます。原因は不明とされていますが、ステロイド剤の投与で一時的に好酸球を減少させて症状を緩和することができますが完治するものではないので悩ましい病気の一つです。犬でも消化器症状をくり返す時に好酸球の増加がみられることがあります。

肥満細胞腫などの悪性腫瘍の時、肥満細胞が好酸球を呼びよせる物質を出すので血液中に好酸球が増えることがあります。

好酸球の減少は、ストレス、ステロイド剤の投与、副腎皮質機能亢進症、急性炎症や感染でもみとめられます。

 

好塩基球

好塩基球は細胞内にヒスタミンやヘパリンなどを含んだ顆粒を持つ白血球です。末梢血中にはほとんどみられることはありません。組織に出ると肥満細胞になるのではないかという説もありますが好塩基球と肥満細胞は全く別のものであるという説もありいまだに明らかにされていません。

肥満細胞は組織中で分化・増殖することが知られています。肥満細胞はアレルギーに関与し、ヒスタミンなどを含んだ顆粒を大量に持っています。ヒトの花粉症などの時によく耳にする細胞かもしれません。肥満細胞に抗体がくっつき、抗原(花粉症の場合、花粉など)が2つ以上の抗体にまたがって捕まえられると(架橋)抗原抗体反応により細胞内に含まれるヒスタミンなどが放出され即時型アレルギーが起こります。花粉症では目や鼻がムズムズし、くしゃみや涙や鼻水が出てきます。ヒスタミンは細胞間を開いて免疫細胞を呼び寄せやすいような環境を作りますが過剰な反応は困った症状を引き起こしてしまいます。犬にも花粉症(花粉によるアレルギー反応)がありますが、主にみられる症状は結膜炎、体のかゆみです。

 

単球

単球は血中を流れて組織に移動し、マクロファージへと分化します。マクロファージは微生物・異物などを取り込んで処理します(貪食作用)。膿の中にも働きを終えた多数のマクロファージが含まれています。

 

リンパ球

リンパ球は他の血球と同様におおもとは骨髄の「多機能性幹細胞」から造られますが、その他の血球よりも早く系統が分かれ「リンパ球系幹細胞」に分化し、主にBリンパ球とTリンパ球に分化していきます。その他にもNK細胞(ナチュラルキラー細胞)なども造られます。

Tリンパ球は骨髄から胸腺(thymus)に入って分化生産されます。Tリンパ球は抗体産生の調節と細胞性免疫(抗体が関与せずにリンパ球やマクロファージなどが直接標的物に作用する免疫)の主役となるリンパ球です。細胞性免疫は遅延型アレルギー(食物アレルギーの一種やワクチンの反応など)に関与しています。ヒトで実施されるツベルクリン反応もこの細胞性免疫反応を利用して発赤や硬結の大きさを調べて結核菌感染の有無を調べています。移殖片の拒絶反応、腫瘍、ウイルス、寄生虫、原虫に対する免疫、一部の自己免疫などがTリンパ球による細胞性免疫です。

一方、Bリンパ球はTリンパ球より長く骨髄(bone marrow)にとどまり、その後脾臓やリンパ節などのリンパ組織に放出され、抗体を産生する細胞(形質細胞)へと分化するリンパ球です。Bリンパ球は体がすでに認識している異物(抗原)に対して抗体を産生して、免疫グロブリンの働きにより抗原を攻撃し(抗原抗体反応)感染防御に働く体液性免疫の主役となるリンパ球です。体液性免疫は即時型アレルギーに関与しています。

顕微鏡による検査では、Tリンパ球とBリンパ球を形態で区別することはできないのでまとめてリンパ球として数えます。

 

血小板

血小板は骨髄の「多機能性幹細胞」から分化する骨髄巨核球の細胞質がちぎれて作られています。血小板は止血に重要な役割を持っています。血液中を流れる血小板は傷ついた血管に粘着して傷をふさぎ、顆粒を放出して他の血小板を呼びよせてかたまり(血餅)を作り出血をくいとめます。(止血は血小板の他にも複雑なメカニズムが関係して成り立っています。)血小板は止血以外にも細菌、ウイルスなどの微粒子を取り込んで貪食作用を行ったり、血管の収縮/拡張にも関与したりしています。

血小板は炎症や貧血、悪性腫瘍、重度の怪我や骨折、脾臓のトラブル(摘出術後、機能不全、機能低下)などの時や骨髄巨核球の腫瘍性増殖のとき増加します。

血小板の減少は産生の低下、破壊や利用の亢進、体外への過度の損失、敗血症、自己免疫疾患(免疫介在性の血小板崩壊)、ウイルス感染などのときにみられます。ワクチン接種も一過性の血小板減少がみられることがあります。犬ではリンパ腫、腹膜炎、貧血、DIC(播種性血管内凝固)、慢性肝炎、脾腫、ある種の薬剤やホルモン、骨髄性白血病、その他の腫瘍、アジソン病などでも血小板減少が認められます。血小板が減少すると内出血がおき、紫斑がみられたりします。

血液中の血球成分の構成は本来その動物種ごとに決まった割合に調整されています。それらの数を数えることにより感染、脱水、貧血、腫瘍(白血病など)その他の情報を得ることができます。

当院では赤血球1μl(1マイクロリットル:1mlの1/1000)中の赤血球、白血球、血小板の数と血液中の赤血球の割合(PCV)、ヘモグロビン濃度(赤血球の希釈液を溶血させてその中に含まれるヘモグロビンの濃度を測定。PCVの約1/3の数値となります。貧血の検査で重要な項目です。)MCH(平均赤血球容積)、MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)、MCH(平均赤血球ヘモグロビン量)は自動血球計算機で測定しています。

白血球分画(白血球の種類ごとの内訳)と網状赤血球(若い赤血球)の検査は、血液を検査用のガラスに一層にひきのばし、特殊な染色液で染色し顕微鏡を使って検査をしています。白血球分画は顕微鏡で白血球100個あたりの各血球の割合を数えることによって出し、血球計算機で測定した白血球数とかけあわせることによって血液1μl中の実数を算出します。

貧血の評価はMCV、MCHC、MCHを照らし合わせることにより4つのタイプに分類します。

  • 大球性低色素性貧血(MCV高値、MCHC低値:再生性貧血)出血、溶血が主な原因。骨髄の赤血球産生機能は正常
  • 正球性正色素性貧血(MCV、MCHCとも正常:非再生性貧血)慢性疾患や腎疾患、骨髄での生産能力低下
  • 大球性正色素性貧血(MCV高値、MCHC正常:非再生性貧血)骨髄の赤血球が腫瘍性大型化、猫白血病ウイルス陽性猫など
  • 小球性貧血(MCV低値、MCHC正常または低値:非再生性貧血)ヘモグロビンの合成に問題あり。鉄欠乏性貧血、慢性出血、吸血昆虫の慢性感染など

 

これらの検査により炎症、感染症、貧血、白血病などの有無(赤血球を含め、全ての血液細胞は腫瘍性の増殖で白血病をおこします。)、程度を調べ、あわせて実施する血液生化学検査と動物の触診、視診、聴診、飼主さんからの問診、病歴、薬歴などを総合して診断することになります。病気によってはその他の検査も必要になることがあります。

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